- 問題文
- 言語
- 北⻄バヤ語
- 問題形式
- 🔀対応付け
- 難易度
- ★★★★★★★
IOL2014-5 の攻略
問題文に関する注意点
- 「死ぬ」は誤訳。正しくは「死にかけている」。英語の問題文では “to be dying” 。
- 「表面に」は「表面上」と読み替えたほうが良い。
ヒント 1
突出して出現頻度の高い意味に注目する。
さらなるヒント
「眼孔」「眉毛」「まつげ」は、ある別の選択肢に関わる。
答え
「眼孔」「眉毛」「まつげ」「目/顔」は、すべて「目/顔」に関するもので、同じ語を持つ可能性がある。
また、yík
が 5 回出現する。
4 回と 5 回で完全一致はしていないが、yík
=「目/顔」と仮説をおける。
ヒント 2
búmá yík
と búmá zù yík
に注目する。
さらなるヒント
zù
という語も単体で出現する。それに合いそうな選択肢を探す。
答え
zù
=「上に」búmá zù yík
=「眉毛」(毛 - 上 - 目)búmá yík
=「まつげ」(毛 - 目)
ヒント 3
kò yík
と kò zòk
も決まる。
答え
kò yík
=「眼孔」(穴 - 目)kò zòk
=「鼻孔」(穴 - 鼻)
ヒント 4
「畑」を起点として、関連する選択肢を洗い出す。それらに該当する語を探す。
ヒント 4-1
畑を含むのは「良い畑」と「畑の端」。「良い」や「端」を含みそうな単語を見つける。
ヒント 4-2
「良い」を含みそうなのは「幸福」。「端」を含みそうなのは「舌の先」。
ヒント 4-3
残る語の中で、出現頻度が 2 回の単語は dí
と fò
。どちらが「畑」か。
ヒント 4-4
これまでの語順の傾向も合わせて考える。
答え
fò
が「畑」。
この言語では「まつげ(毛 - 目)」のように、対象物そのものを先に書く傾向があるので、「畑の先」を考えると「畑」は後に出る可能性が高い。ただし、「良い畑」は「良い - 畑」の語順になるので、やや強引ではある(形容詞は特別と考えられなくもない)。
不安なら、dí
が「畑」だと仮定して進めてみるのも良い。そのうち行き詰まるはず。
ヒント 4-5
「幸福」や「舌の先」の解釈も整理しておく。
答え
dí fò
=「良い畑」(良い - 畑)nú fò
=「畑の端」(先/端 - 畑)dí sèè
=「幸福」(良い - 肝関係)nú lébé
=「⾆の先」(先/端 - 舌)
ヒント 5
sèè
を「肝関係」としたので、ʔáá sèè
と sèè wí
のどちらかが「肝」。
ヒント 5-1
yík
と yík wí
と合わせて考え直す。
ヒント 5-2
「表面に」という選択肢は、「表面上」「見かけ上は」「外観的には」という風に読みかえること。
ヒント 5-3
wí
を「身体」と考えると?
答え
yík
は「目/顔」ではなく、「表面上」。yík wí
は「身体の表面」で「目/顔」を表している。
yík
=「表面上」yík wí
=「目/顔」(目/顔/表面 - 身体)sèè wí
=「肝」(肝/内部 - 身体)
ヒント 5-4
náng wí
は何か。残る選択肢から消去法。
答え
náng wí
=「⾜」(下/足 - 身体)
ヒント 6
残る選択肢は「毒蛇」「死にかけている」「置く」「羨む」で、残る語は次の通り。
dáng gòk
(? - ?)ʔáá
(?)ʔáá náng nú kò
(? - 下/足 - 先/端 - 穴)ʔáá sèè
(? - 肝/内部)
うまくこじつける。
ヒント 6-1
ʔáá
自体が選択肢にあることから、ʔáá náng nú kò
の解釈は次の 4 つしかない。
- 毒蛇 - 下/足 - 先/端 - 穴
- 死にかけている - 下/足 - 先/端 - 穴
- 置く - 下/足 - 先/端 - 穴
- 羨む - 下/足 - 先/端 - 穴
この中で、一番慣用表現として意味が通りそうなものを考える。
ヒント 6-2
「穴の端に足を置く」は、どんな状態?
答え
「穴の端に足を置く」は、危険な状態。つまり「死にかけている」。
ʔáá náng nú kò
「死にかけている」(置く - 下/足 - 先 - 穴)ʔáá
「置く」(置く)
ヒント 6-3
「置く - 肝/内部」という慣用表現を考える。
答え
ʔáá sèè
「羨む」(置く - 肝/内部)dáng gòk
「毒蛇」(? - ?)
ヒント 7
dáng gòk
のそれぞれの直訳は何か。
さらなるヒント
どちらかが「毒」でどちらかが「蛇」に相当する。次のことを考えて決定する。
- 「不満」が表現できること(
dí sèè
「幸福」も参考にする) lébé gòk
が自然に訳せそうなこと
答え
dáng
=「悪い」gòk
=「蛇」dáng sèè
=「不満」(悪い - 肝)lébé gòk
=「蛇の舌」(舌 - 蛇)
逆だとすると、lébé gòk
が「舌 - 悪い」になってしまい、形容詞は前から修飾する法則に合わない上、意味もいまいちしっくり来ない。
余談
この問題の肝は、yík
が「表面上」、yík wí
が「目/顔」という意味になるところだと思う。
作問者がロシア人であることから、この問題の選択肢「表面に」は「на поверхности」がオリジナルの表現だと思われる。これは英語の「on the surface」に相当するようで、文字通りの「表面で」という意味もあるが、慣用表現として「見かけ上」「うわべは」「外観的には」という使われ方が多いらしい。ここから「感情や考えを表現する身体部位」、つまり「目/顔」を連想するのは(かんたんではないけれど)理解できる。
一方日本語の問題文の「表面に」という表現から「目/顔」を連想するのは、非常に難しい。なお、英語の問題文も「on the surface」ではなく「at the surface」と訳されていて、これだと「見かけ上」の意味はほぼないので、おそらく厳しい翻訳になっている。
また、「死ぬ」は明白に誤訳で、慣用表現を読み解く障害になっている。
とはいえ、言語学オリンピックの問題を公平に翻訳するのは日本語ネイティブでもむずかしそうなので、仕方ない面もあると思う。もし「表面上は」や「見かけ上」などと訳していたら、日本語版が簡単になりすぎた可能性もあるので、誤訳とは断じにくい。